【書評】老後の資金がありません(垣谷美雨著)

 

 ファイナンシャルプランニング的な本かと思い、書店にて手にとった。

後日、台風が迫る雨の日の午後、行きつけのカフェで一気に読みきった。

 

読んで見ると手に取った時のイメージと全く違い、心温まる物語で初秋にはちょうど良い読後感だった。

内容に軽く触れると、

 

主人公は50歳を過ぎた主婦、後藤篤子。

「老後は安泰」のはずが、娘の結婚費用、舅の葬式費用、姑の生活費用と出費が重なり、瞬く間に老後の生活費として蓄えていた預金残高が崩れ去っていく。

それに追い打ちをかけるように夫婦揃ってリストラされ・・・。

 

老後、経済的にどうやって暮らしていけばいいのか?

という現代人の普遍的な不安を

タイトルで単刀直入に一言で表現しておきながら、

読み終わる頃にはほっこりした気持ちになってる。そんな本。

 

肝心なのは

なぜ読み終わった頃にほっこりした気分になったのか?

この部分にこの物語の本質が詰まっていて、

 

あとがきで室井佑月さんも書いていますが、

キーワードは「くだらない見栄は張らない」ということ。

 

これは決して、

老後は見栄を張らず質素な暮らしをしましょう。そうすれば資金がなくて困ることはありません!というような軽薄な助言ではなく、

 

ある一つの生き方の提示であって、

金銭的な話というよりは人との関わり方に関して

多くの人のヒントになりうる。

 

僕が思う、本を読むことの意義をひとつあげるならば

登場人物の気持ちになって事象を追体験することで、

「他人の気持ちを推し量る」という人間的能力が向上するということがある。

 

この物語では主人公の篤子の他に、夫の章(あきら)、娘のさやか、息子の勇人、フラワーアレンジメント教室の友達のサツキ、講師の城ヶ崎先生、同じく生徒の美乃留、姑の芳子ほか様々な年齢、性別の人物が登場してその内面が描かれる。

それぞれの会話するシーンが頭の中で繰り広げられ、まさに自分がそこにいるような感覚になったり、ときおり登場人物になったような感覚(いわゆる感情移入というやつ)になることがある。

 

他人の気持ちは考えても簡単に分かるようなものじゃなくて、

他人と話したり、その生き方に触れて初めて分かるようになるもの。

 

本を読んで追体験すると

こんな人生もあるのか、と自分の中に価値観であったり物の見方の引き出し増える。

人間の内面の深みが増すのは言うまでもない。

 

読書の効能を語るみたくなってしまった。

でも篤子みたいな人はめちゃくちゃ多いと思うし、

この本を読んで得た引き出しは今後結構引き出すことになる気がする。

読んでよかったなと思える一冊。

 

他人に対して見栄を張ってしまうな

と感じてる人には特に読むことをおすすめしたい

気持ちが楽になると思う。