四国中国見聞録【後編①尾道をゆく】

尾道編

 

いよいよ4日目である。

広島は尾道にて眼が覚める

 

まず目指すは銭湯。

尾道のローカル銭湯での朝風呂。

昭和の香り漂うエントランスを抜けていざ。

 

全面タイルばりで、色とりどりのタイルで西洋の柄が壁一面にひろがる。

浴槽は大きくはないものの手と足を精一杯広げてもまだ余裕がある大きさである。

 

贅沢な朝風呂を終え、いよいよ尾道の散策に入る。

車で行けるところまで行こうと試みる。

今回の旅でもっとも気に入った場所、尾道。

 

銭湯からすでにハイセンス。

昭和のポスターそのまま残ってて、世代によっては刺さるのかな

若かりし頃の和田アキ子とかノスタルジーを超越する感じ

尾道がイマイチピンとこないという方のために尾道という町について説明すると、

広島と岡山のほぼ中間点に位置していて北側を山に、南側は海に面していて、

しまなみ海道を四国側から抜けて本州に上陸した時に一番最初に通る場所。

海と山に囲まれた地形ゆえに平地が少なく山の斜面に住宅や寺が林立していて、かつ建物は密集していてその間を走る路地は狭い。

その狭い道がなんとも言えない情緒を醸しており、それゆえに「坂の町」「映画の町」「文学の町」と四国中国地方でもひときわエモさを放っている。

坂を下るとすぐ海に出るけども、目と鼻の先に向島が見えて、海というよりは湖くらいの距離感で対岸がある。最も近いところは200メートルほどだそうだ。

この近さから向島までは「尾道水道」と呼ばれている。

今年に入って愛媛の刑務所から泳いでここを渡ったとのニュースが記憶に新しいが、

まさにここを泳いで渡ったとのことだ。

昭和の頃は、小学生でも泳いで普通に渡っていたんだよという話を、道ゆくおばあさまが教えてくれた。尾道の人は大変フレンドリーである。

 

尾道の楽しみ方はと聞かれると

答えは一つである。

散歩だ。これに尽きる。

 

ゆっくり物思いにふけりながら坂道を登ったり降りたり、時には細い道に入ったりして、ゆっくり流れる時の流れに身をまかせる。なんとも贅沢なひと時だ。

 

おすすめは

千光寺山の頂上から、山の斜面を下るようにしていくつかある寺を巡っていくコース。

途中には猫好きによる猫好きのための猫大好きスポット

「猫の細道!!!」がある。

 

こんな道をはじめ・・・

緩やかな坂道やら

ジブリ感のあるこんなところとか

 

かわいい猫のオブジェ

 

 

なんともエモ苦しい階段

そして野生の猫ちゃん。

のんびり歩くだけで

心が充電されていきます。

寺も木立に囲まれて神秘的な雰囲気を醸す

頭上には山頂までのロープウェー

尾道の街並みを見下ろすなんとも贅沢なロケーション

・・・と猫ちゃん。

細い道を歩いてくと所々におしゃれなカフェがあります。

そのうち一つは猫カフェです。

道で猫とこれでもかと戯れておきながら

カフェに入っても猫。

猫づくしとなります。

 

しばらく進んでいくと一番メインのお寺、千光寺が見えて来ます。

その中で突如現れる肉体系アクティビティがこちら。

鎖修行?!

鎖を伝って登るだけ。

なんですがこれが非常にグラグラしてしんどいのです

簡単そうに見えるけど意外と怖くて、

途中で一旦止まってしまうと、

登るのも怖いし降りるのも怖いしどうしよう。。。

となります。

一歩ずつ進み続けることの大切さが身にしみて分かるというか悟らされる

そんな修行です

登り切って振り返るとこの景色

格別です。

 

旅は続きます。

シンゴジラと日本スクラップアンドビルド

危機に直面した時にどう動くべきか?

この問いに対する教訓を提示しつつ、現代の官僚構造皮肉り、それfだけでなく今後の未来に対する期待を抱かせてくれる作品。

 

単純にシンゴジラは抗えない自然災害の比喩であったり、

人間が自ら作り出した核のメタファーとして描かれているものの

物語はとりあえず凍結すると言う作戦が成功したところで完結する。

 

しかしながら、完全にゴジラが消滅するエンドではないところに

作者の思い、伝えたいものが現れていると考える。

正義が単純に勝つ勧善懲悪の物語ではなく、

現実としての問題提起をしているところがある。

 

より一層リアルを追求した作品

 

この作品を語る上で避けては通れないのが

政治家の挙動だ

官僚主義、形式主義、意思決定の遅さ、縦割り組織の構造が

国際社会と比較され皮肉られている

 

東京の街は焼け野原になるが、

印象的なセリフが放たれる

 

「この国はスクラップアンドビルドでここまできた」

 

この一言、シビレる。

 

これまでの近代史をわかっている日本人であれば

感慨深さを抱かざるを得ない

 

フィクションでありながらも

限りなくリアルの世界観とシンクロさせているおかげで

物語をフィクションとしてではなく、ドキュメンタリーを見ている感覚に近く、

感情移入が容易だ。

政治面での演出は、生々しく出世に関する発言が盛り込まれていることも相まって

登場人物の人間味をより引き出し、これがリアルな世界観の構築に一役買っている。

 

以上感想。

完成度高し。

四国中国見聞録【前編】

四国中国見聞録【前編】

 

前日、明日から旅が始まるという興奮と準備のためなかなか寝付けず、

結局午前2時頃就寝し、案の定出発が朝9時になるというお決まりの展開でスタートした中国四国の旅。

 

前日職場で、

 

「明日の昼頃には香川でうどん食ってますわ~ワハハ」

 

と言っていたフラグも見事に回収

 

昼頃やっとの事で京都の上の方、舞鶴を通過し、そのまま神戸を突き抜け明石海峡大橋の大きさに驚きつつも

四国に初めて上陸。

 

入り口は香川ではなくて徳島であったこと気づくのが遅い。

 

最初の目的地は四国八十八か所お遍路の最初の寺である霊山寺(りょうぜんじ)

お遍路の始まりというのでどんな山奥なんやろうと思っていたが意外と普通の道沿いにあった。

 

 

とりあえず車を止め、案内所のようなところに入ってみる。

 

ポケモンでいうところのマサラタウンである。案内所はオーキド博士の研究所というところか。

 

だとすると、僕はまず案内所ではなくて近くの草むらに入らないといけない。

 

ポケットモンスターならぬお遍路モンスターが飛び出してくるのだろうか?

全然おもしろくない・・・

 

それはそうと、案内所に入った時の店の奥に老婆が2名ほど鎮座していたが、

 

その眼光たるや鋭く、また迷える子羊がきたのう・・・とでも言わんばかりの値踏みするような視線で見てくる。

 

蛇に睨まれたカエルのごとく一瞬体に力が入らなくなった気がしたが、杖や経典など陳列してあるお遍路グッズを

 

物珍しそうに物色していく。

 

今からお遍路するわけではないのに生半可な覚悟でこの施設に足を踏み入れたことがよくなかったのかと思いながら一通りのアイテムを見てから案内所からそそくさと出る。

 

すると一人の真面目そうなメガネの青年から声をかけられた。

 

「四国電力のものですが」

 

「はい・・・」

 

「今こういうものを作ってまして」

 

青年、1枚のチラシを手渡してくる

 

遍路のあかりというアプリで、お遍路される方のサポートするアプリでして・・・

 

話を要約すると次の寺の位置情報を教えてくれたり、八十八か所の寺の歴史やうんちくがまとめられていたりするアプリで、近くの飲食店も検索できるらしい。

それぞれの寺の電柱にビーコンが設置されていて、そこからお遍路人の位置情報を読み取って近くの飲食店を教えてくれるらいいのだが、

 

それグーグルマップでよくね?

 

という率直な感想は胸にしまい、

意見やもっとこうしたらいいということなどあればと問われたので、

 

実際に遍路する人の気持ちになって、不安なとことを解決するQ&Aを載せてみてはどうか?

自分の位置だけでなく、このアプリを使いながらお遍路している他人の位置もわかるようにしてみては?

という至極真面目な意見を述べた。

昨今の位置情報を活用したアプリやポケモンGOに着想を得たもので、

お遍路GOというアプリにするとちょっと遍路時のテンションが高すぎるのではないかと

世間のバッシングを浴びそうなので飲み込んだ。

 

一句 

寺八十八、テンポよくいこう、templeだけに。

 

はい

 

青年に別れを告げ、

軽く境内を見て回る。

白装束のおっさんが般若心境を唱えていて、あ、この方はかなりの上級者かな、

と思ったのがハイライト。

 

車に戻ると、隣に東京ナンバーのインプレッサが止まっている。

運転席には若いにーちゃん。

 

なにやらフロントガラスの内側に画用紙みたいなものが。

 

「日本一周中。free hug」

おう。

 

見なかったことにして車のエンジンをかけ、今宵の目的地である徳島市内を目指して出発した。

 

お遍路についてであるが、

 

お遍路の際の最重要アイテムである杖には南無大師遍照金剛同行二人と書かれている。

これは自分一人で回って居るのではなく大師さまと一緒に回っているのだということ。

 

そのため、杖は大事に扱わなければいけないのだそうだ。

 

それと、僕の大学の時の後輩で、歩き遍路を達成した奴がいて、

 

彼曰く、遍路は人生そのものであるそうだ。

 

つまり、長い旅の中で精神的、肉体的に辛いことがあるが、それが人生に思えてくるとのこと。

 

 

いつか歩き遍路で全行程八十八ヶ所達成してみたいものだ。

 

 

寺を後にし目指すは徳島市。

 

とにかく徳島ラーメンを食さねばなるまい。

 

先にホテルにチェックインを済ませ、小雨の中、のれんをくぐる。

 

 

卵が入れ放題。

豚骨醤油がなんともしみる徳島ラーメン(卵投下前)

 

からの2軒目を探して徳島の繁華街を歩く。

 

一部ピンクなお店もチラホラ。

 

歩いているとホームレスを自称するおっさんから声をかけられる。

 

「おうアンチャン、すこし援助してくれんか」

 

「僕よりもっと持ってる人がいっぱいいるのでその人に頼んでください。それに僕旅行者なんで。」

 

というくだりがあった。

 

初めて訪れた地だとなおさら、地元の人でワイワイガヤガヤしているようなバーや居酒屋には入りにくい。

彼らの日常を、よそ者が入ってきたことによって非日常に変えてしまったら申し訳ないなという謎の引っ込み思案精神がある。

 

何軒か覗いて、客の入っていない店を見つける。

店主は髪が明るめの茶髪のねーちゃんの店である。

 

そのねーちゃんは35歳とのことである。

 

 

Today's地酒は土佐鶴。高知のお酒で辛口です。明日は高知へ行くので予習として

 

 

バーを後にし、ホテルへ帰る。

 

こうして1日目がおわった。

 

 

翌朝は優雅に大浴場を独り占めし、サウナに入った後、高知へ。

昨日小雨の中徳島の繁華街を歩き回ったおかげでかかとが靴づれしたので現地の薬局で絆創膏を調達しその場で装備。

 

めざすはひろめ市場。

 

高知はすごかった。

女の子が美人すぎる。

そりゃ龍馬もこの顔なるわと思う。 

 

昼間っからビールとぎょうざ

平日の昼間である。

 

カツオのたたきは絶品。

 

 

 

高知を後にし

 

香川へ。

 

香川で大学の先輩と会う。熱い話になる。

 

 

1軒目は行きつけの居酒屋

2軒目にうどんを食し、

3軒目にはもはやハイボールとさつまいもアイスしか入らなくなっていた。

 

先輩とわかれ 

 

今日のお宿に。

 

宿はゲストハウス。

 

その後ろ姿を見ながらエレベーターを上がり、自分の区画へ。

自分の区画は下段であった。

 

こういう狭いところはめちゃくちゃ落ち着く。

お酒がまわっていたこともあって、翌日の作戦会議を一人でとりおこなっているとすぐに眠気がきて、そのまま爆睡。

 

起きると10時。チェックアウトの時間である。

1時間すぎると千円も追加料金を申し受けますと説明の用紙に書かれていたので、

それ超えなければいいのかと納得し、そこからシャワーを浴びてホテルを後にする。

 

今日はまず本格的な香川のうどんを食べないといけない。

その後道後温泉に行き、

さらに明るいうちにしまなみ海道を渡りたい。

 

そして尾道まで到達するというめちゃくちゃハードなスケジュールが待っている。

 

なので無駄な時間は少しもない中、

 

うどんの店に到着。

 

はいっ!

 

店内は高校生からお年寄りまで老若男女が集まっていた。

すみっこのカウンター席について釜玉うどんが運ばれてきた時にはすでに店の入り口まで行列ができていた。

繁盛してるな。

 

ここで印象に残る壁のはりがみ。

 

釜からあがって10分経過するとうどんは死ぬ。

 

お腹がいっぱいになった。

 

 

んで道後温泉到着。

坂道が多くて楽しい。

車を止めて、旅館と旅館の間の細い坂道から温泉街の方へ降りていく。

突如、いかめしい名前の旅館が目の前に現れた。

「重役室」

 

結論から言うと旅館ではなかった。温泉街特有のアレだ。

 

 

そこを抜けるとまたまたいかめしい黒服のおっさんが両脇に立ってこちらを見つめる。

獲物を狙うハイエナのような目をしている。 

緊迫した雰囲気の中を何事もなかったように平静を装いながら通り過ぎる。

 

昨日お遍路もせんのに案内所を訪れた僕に対してのものと一緒だった。

 

こちらは「無料」案内所であったが。

 

自分のはっきりしない態度を見て

「入るのか否か白黒はっきりしろ」と訴えかけるが

 

なんとか切り抜け、道後温泉街に足を踏み入れる。

風俗レポートを楽しみにしていた皆様すいません。それはまたどこかで。 

 道後温泉!

 

 

 

いい湯でした! 

 

 

くねくねする山道を抜けていよいよしまなみ海道突入である。

 

この頃にはもう暗くなっており、

 

特になんの感動もなく通り過ぎた。

天気良い時にチャリで来ると最高なんだろうなと思った。

 

 

しまなみ海道を抜けついに今日の目的地である尾道に到着。

尾道の街をとりあえず車で走ってみる。

 

第一印象は金曜の夜にもかかわらず全然人おらんやんけ。

 

適当にぶらぶら散歩しつつ尾道ラーメンの店に入るお。

 

 

注文!!

 

明日は山口に向かう。

その予習にと山口の銘酒。獺祭純米大吟醸を注文。

 

 これが絶品であった。

はちみつ舐めてるまではいかんけども甘みがあって、

今回の旅のベストオブ地酒にノミネート。

 

そしてバイトのにーちゃんに話しかける。こういうところでは自分からエイっと話しかける勇気があればなんとかなる。

 

ほどなくして隣の老夫婦から話しかけられる。

 

「にーちゃん旅行か?」

 

「旅をしております。金沢からきまして」

 

「へぇ~金沢から。そりゃ遠いところから来たね。」

 

 

そこから奥さんの話を聞く役になる。

少々あらびきで 要約すると

 

ひとり娘今年26歳で僕と同い年が、現在東京で住んでる。

なにやら彼氏(37)ができたらしくその彼氏がすごい。

不動産会社を経営しており、娘さんは港区に11万円のタワマン住んでて(親負担)、ハリーウィンストンのダイヤの指輪を買ってもらったとか。典型的な港区女子。同世代の男は完全に見下しているらしい(両親談)。

ここからはムーディー勝山。受け流していく。

ロレックスについての話題。レクサス、ベンツについて。駅前に家買ったことについて。

彼氏の会社について。目ん玉飛び出るほど金持っていることについて。ご両親へのご挨拶について。

事細かに話してくれた。んでスマホを見せて写真を見せてくれた。ああ、これは同世代の男子全てゴミと思ってる顔ですわ。と思ったが、僕は綺麗ですと太鼓判を押した。

褒めれば害はない。

それにしても金持ってんなこの夫婦。

 

しかし、宿についてはあえて何も決めていなかったため、今回の旅で初の車中泊となる。

 

こうして三日目は幕を閉じた。

 

前半終わり。後半に続く。

chitekikokishin.hatenablog.com

 

常に脳内で他者と闘っていたのをやめた話①

僕は負けず嫌いだ。

 

この負けず嫌いは、

中学、高校と思春期真っ盛りの時代に形成された。

 

 

大学を出て、社会人になった。

就職先は地元の銀行。

 

 

 

地元は狭い。

奥様A :「〜さんの息子さん銀行に就職したんだってねえ〜」

奥様B、C:「すごいわね〜」

 

なんて会話が、

SNSでつぶやいたのかと思うほどリアルタイムで広がってゆく。

 

地方は

順当で安定している(とされる)人生を歩むことに対する、

無言の圧力が、

妙に強い。

 

3ヶ月に渡る学校の授業のような研修を終えて

 

ようやく

 

支店に配属されて最初は「出納」という係になる。

いわゆるATMのお世話係だ。

 

そのほかは為替といって、

振込を処理するマシーンとなる仕事で、

今は事務センターというところに集約され

そこでまとめて処理されている。

 

そうしているうちに1年が過ぎた。

自分は一体何やってんだろうと思っていた。

 

 

僕は負けず嫌いだ

 

他者に対して少しでも優れている点を見出さねば気が済まなかった。

 

 

他人との違いを出せない単純な内部事務に嫌気がさして、

何か熱中できることはないかと考えた。

 

 

3年以内に取りなさいよという資格試験が4種あった。

 

銀行業務検定試験というやつだ。ちなみに種目がいくつもあって、

 

財務、税務、法務のそれぞれ2級と外為の3級。

 

年に3回受験するチャンスがある。

 

 

 

それを入行してから1年と2ヶ月で全て取ってやった。

 

合格発表と合わせて、

銀行内の電子掲示板にバーンと名前が載った。

 

 

気持ちよかった。

 

 

そして

 

特に実務においてこれといった実績を残したわけでもなく、

 

最初の支店よりは規模が大きくて

 

少し忙しいとされる支店に転勤になり、

 

3年目からいわゆる会社まわりの日々が始まった。

 

 

 

結果から先に言うと僕はこの支店でのミスが重なり、

 

1年3ヶ月で住宅ローンの専門部署

 

いわゆるローンセンターというところに

 

転勤を命じられた。

 

 

基本的に、一度支店に赴任すると、短くても2年は居るのが普通だ。

 

 

なのでみんな薄々気がついているだろう。

 

 

 

この異動が栄転ではないことに。

 

 

常に脳内で他者と闘っていた僕は

 

その全てに敗北し、

何人かはこちらを指差して嘲笑しているかのような

そんな思いがして

自分の中のプライドというプライドが

静かに崩れ去った。

 

 

続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【書評】老後の資金がありません(垣谷美雨著)

 

 ファイナンシャルプランニング的な本かと思い、書店にて手にとった。

後日、台風が迫る雨の日の午後、行きつけのカフェで一気に読みきった。

 

読んで見ると手に取った時のイメージと全く違い、心温まる物語で初秋にはちょうど良い読後感だった。

内容に軽く触れると、

 

主人公は50歳を過ぎた主婦、後藤篤子。

「老後は安泰」のはずが、娘の結婚費用、舅の葬式費用、姑の生活費用と出費が重なり、瞬く間に老後の生活費として蓄えていた預金残高が崩れ去っていく。

それに追い打ちをかけるように夫婦揃ってリストラされ・・・。

 

老後、経済的にどうやって暮らしていけばいいのか?

という現代人の普遍的な不安を

タイトルで単刀直入に一言で表現しておきながら、

読み終わる頃にはほっこりした気持ちになってる。そんな本。

 

肝心なのは

なぜ読み終わった頃にほっこりした気分になったのか?

この部分にこの物語の本質が詰まっていて、

 

あとがきで室井佑月さんも書いていますが、

キーワードは「くだらない見栄は張らない」ということ。

 

これは決して、

老後は見栄を張らず質素な暮らしをしましょう。そうすれば資金がなくて困ることはありません!というような軽薄な助言ではなく、

 

ある一つの生き方の提示であって、

金銭的な話というよりは人との関わり方に関して

多くの人のヒントになりうる。

 

僕が思う、本を読むことの意義をひとつあげるならば

登場人物の気持ちになって事象を追体験することで、

「他人の気持ちを推し量る」という人間的能力が向上するということがある。

 

この物語では主人公の篤子の他に、夫の章(あきら)、娘のさやか、息子の勇人、フラワーアレンジメント教室の友達のサツキ、講師の城ヶ崎先生、同じく生徒の美乃留、姑の芳子ほか様々な年齢、性別の人物が登場してその内面が描かれる。

それぞれの会話するシーンが頭の中で繰り広げられ、まさに自分がそこにいるような感覚になったり、ときおり登場人物になったような感覚(いわゆる感情移入というやつ)になることがある。

 

他人の気持ちは考えても簡単に分かるようなものじゃなくて、

他人と話したり、その生き方に触れて初めて分かるようになるもの。

 

本を読んで追体験すると

こんな人生もあるのか、と自分の中に価値観であったり物の見方の引き出し増える。

人間の内面の深みが増すのは言うまでもない。

 

読書の効能を語るみたくなってしまった。

でも篤子みたいな人はめちゃくちゃ多いと思うし、

この本を読んで得た引き出しは今後結構引き出すことになる気がする。

読んでよかったなと思える一冊。

 

他人に対して見栄を張ってしまうな

と感じてる人には特に読むことをおすすめしたい

気持ちが楽になると思う。

 

 

 

「かわいいは正義」を分析した先にあるもの

かわいいは正義を分析した先にあるもの。

 

それは時代の象徴的価値観。

現代で価値のあるものは何か?

お金は数値的に価値の貯蔵手段として定量的に知覚できるが、

従来、願望や人望、信頼は定量化することができなかった。

 

そんな中、インターネットの普及し、

承認欲求というものが、人々をSNSの海へと駆り立てた。

 

身の回りのアナログな世界から、

デジタルな世界が誕生し、

以前はテレビを、新聞、ラジオなどを通じて受動的にしか情報を受け取る手段がなかった。

 

これが、パソコン、スマートフォン、そしてインターネットと一般の人々が能動的にアクセスできる環境が整ったことによって、コミュニケーションが双方向となった。

 

人は画面の中の世界に自己を投影し、他人に認められたい、より優れた別の何かに変わりたいという欲求を満たすことができるようになった。

 

そんな世界の中どのように生きるか?

新しいシステム、商品、価値観の誕生によって時代は変遷し、

世界は塗り変わっていく。

 

2018年9月13日。

コーヒーを飲みながら。